isumu 学芸員さんに聞きました

なかなかお会いできない学芸員の方にお話を伺うブログです

Vol.4 鳥取県立博物館 福代宏さん

日々、貴重な文化財の収集や調査研究、管理、展示を行う学芸員さんに、お仕事内容やイチオシの収蔵品についてお話しいただく「学芸員さんに聞きました」。

第4回目は、鳥取県立博物館学芸課人文担当の福代宏さんの登場です。

(以下、福代さんのお話)

 

鳥取県の総合博物館として昨年、開館50周年を迎えた当館は、県内の歴史・民俗、自然、美術の3分野を紹介展示しています。

 

昭和47年10月、久松山下鳥取城跡内にオープンした鳥取県立博物館

 

実は令和7年春、県中部の倉吉市に新たに県立美術館が開館することになりました。

この美術館の開館した後、当館は自然と歴史・民俗中心の施設になります。

美術館では近現代の美術を中心とした展示を行いますが、仏教美術関連については所有する寺院・神社さまの意向を受け、県中部エリアの社寺さまのものは美術館で、東部エリアの社寺さまのものは引き続き当館で保管・展示する予定です。

それまでの間であれば当館ですべて見ることができるかというと、現在は美術館の開館準備のため当館の美術常設展示室は閉鎖され、仏教美術や仏像を見られる状態ではありません。

そんな中ではありますが、イチオシであるこちらの蔵王権現像は、ご来館いただければいつでも見ていただけます。

 

 

この像は、三仏奥之院[投入堂]の安置とされ「正本尊」と呼ばれる、国重要文化財の像を等身大で複製したもので、投入堂の模型とともに歴史・民俗展示室に常設展示しています。

複製像ではありますが大変精巧に作られています。

平成17年、当時まだ珍しかった三次元計測を用いて三佛寺でデータを取り、光(ひかり)合成という技術で原型を作成し、さらに模刻の技術者が雌型を作り調整を施したものです。

 

 

エポキシ樹脂とガラス繊維を組み合わせた強化樹脂(FRP)で作られた本体に、金箔、白土、アクリル絵の具等を用いて彩色を施し、実物そのもののような質感や迫力を表現しています。

照明に照らされたガラス越しの姿は、まさに木彫のように見えると思います。

 

「日本一危険な国宝」とも称される三佛寺奥院投入堂

 

現在、鳥取県の国宝は3件のみで、うち2件は東京国立博物館に寄託されています。

そのため鳥取県で見られる唯一の国宝が、三仏寺奥院の[投入堂]となります。

現在では附(つけたり)として投入堂の棟札・古材も追加で国宝指定されています。

その投入堂に祀られていた三徳山の本尊・蔵王権現は、像自体が旧国宝であり、鳥取県を代表する仏像であると思います。

また、この像は、X線透過撮影で像内に木札と巻物のような影があることがわかっています。

もし納入物が調査され、歴史的な発見があればさらに価値が高まるかもしれません。今後科学技術が発展し、破壊せずに分析できるような技術が進んだら、ですが……。

 

投入堂本尊をみうらじゅん氏とイスムのコラボで製品化したTanaCOCORO[掌] 蔵王権現 

 

国宝[投入堂]を有する三徳山と、中腹に大山寺を有し伯耆(ほうき)富士と称される大山(だいせん)。

この二つの霊山は鳥取県が全国に誇る歴史ある山です。

研究者を集めさらに調査研究が進むことを目的に、私が理事を務める日本山岳修験学会では両山で学術大会を開いたこともあります。

 

日本山岳修験学会 学術大会の様子

 

日本山岳修験学会とは修験道の学術的な研究を行う会で、山岳信仰や修験に関心を持つ方々で広く構成されています。

半分が学者さん、半分は社寺の関係者や宗教者ですが、単に山が好きという方も参加しています。

実際に行をする方もいて、その行にどんな意味があるのか理解を深め、フィールドワークに活かす方もいらしゃるんですよ。

 

伯耆富士と呼ばれる霊峰 大山

 

修験学会では全国の霊山や神社仏閣にお邪魔できることも魅力です。

「学会」といっても閉鎖的でハードルの高いものではなく、公開講座などは一般にも開かれてます。

ちょっと話を聞いてみたいと参加する方もいるので、興味のある方はぜひ山岳修験学会のホームページをご覧ください。

 

私はこの他に、山陰民俗学会、鳥取民俗懇話会、伯耆文化研究会といった地域の研究活動にも参加しています。

民俗学が専門なので、「人が生きていくうえで何を頼りにしていたか?」というところに興味があり、人びとの信仰世界を深く知りたいという思いがこうした活動に結びついてきました。

 

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学芸員あるある」といえば、月並みなんですけど「まず体力」(笑)。

と言いますのも、大山や三徳山など現地の山寺に行く機会が多く、しかも借用を前提とした調査となるとたくさんの荷物を担いで上がらないといけません。

何か忘れ物をすれば往復することになりますからね(笑)。

やはり、今は人気(ひとけ)ない山深いところにこそ古い文化財が遺されてるということもありますので、かなり鍛えられるといいますか、体力は必要になりますね。

 

摩崖仏の調査風景

 

ちなみに、「日本一危険な国宝」と呼ばれる[投入堂]。

私は残念ながら入っていませんが、近年の修復時に関係者による調査が行われています。

この投入堂、基本的に身舎(もや)正面の扉は神様のもので内開きになっており、東隣の愛染堂に続く庇(濡れ縁)に取り付けられた立格子も動かないもので、人間が進入するものではありません。

昭和初期までは自己責任で、崖に張り付いて登る人もあったようですが、現在では崖の手前に防護柵を設けて手前で拝観することになっています。

 

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その他の当館の見どころとしては自然分野で、全長約7メートルくらいのダイオウイカのホルマリン標本が自然展示室に鎮座しています。

リュウグウノツカイのはく製標本もあります。

 

開館50周年を迎え古びた施設ではありますが、当館が立地する鳥取城跡のある久松山は、かつて羽柴(豊臣)秀吉に「鳥取の渇え殺し」という兵糧攻めを受けた歴史ある山です。

また、自然環境も豊かなロケーションで、鳥取県の歴史や自然がギュっと凝縮した、県外の方にも鳥取県を感じていただけるような施設となっております。

ぜひ軽い気持ちでご来館いただければと思います。

 

 

<プロフィール>

福代 宏(ふくしろ ひろし)

鳥取県立博物館 学芸課 人文担当

1968年生まれ。埼玉大学教養学部教養学科卒業。平成5年より現職。

 

日本山岳修験学会(理事)

山陰民俗学会(理事)

鳥取民俗懇話会(副会長兼事務局長)

伯耆文化研究会(理事)