Vol.1 長谷寺 観音ミュージアム 平井理恵さん
博物館や美術館で活躍する学芸員の皆さん。
文化財の保護や解説に携わる彼らに接する機会はなかなかありませんが、仏像を愛する私たちにとって欠かせない存在です。
そんな学芸員の方におすすめの収蔵品やお仕事について伺うこのブログ「学芸員さんに聞きました」。
第一回目を飾るのは、鎌倉長谷寺の観音ミュージアム学芸員、平井理恵さんです。
(以下、平井さんのお話)
当館の所蔵品の中で私のイチオシはこちら、「木造 勢至菩薩坐像」です。
14世紀、室町時代くらいの作と考えられる仏像で、どういったご縁でこの長谷寺に来たものかは未だによく分かっていません。
現在の阿弥陀堂にある阿弥陀如来像の脇侍だったのではないかとも言われており、そういったところを探るのが面白く、いま研究を続けています。
こちらの像、袖の下がパツンと切れて断面になっています。
ここが断面になっているということは、この像が法衣垂下(ほうえすいか)式像という種類の仏像であったと考えられます。
修理などの際に台座を替える必要性などがあって、バツンと切られてしまったんではないかと思います。
法衣垂下の像は、ここ鎌倉では覚園寺さんをはじめ作例が4つしかなく、この勢至菩薩像をそこに加えることができるんじゃないかと。
そうなると像の文化財的価値が上がり、指定文化財となる可能性も出てきます。
法衣垂下でなかったとしたら、もっと滑らかに造るはずなんですよね。
後の時代に、管理が難しかったり人が手で触れ折ってしまった、などの理由で法衣の部分が断ち切られることはあることなんです。
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私は主に文化財の温湿度管理を担当しています。
収蔵庫内、ミュージアム館内、ケース内の温湿度管理ですね。
これが少しでも狂うと後々、例えば100年後に朽ちてしまうようなリスクが高くなります。
100年後、200年後も皆さんに楽しんでいただけるように管理をすることが仕事のひとつです。
データロガーを使って温湿度を管理する
季節によってもやり方が変わるんですが、当館では冬は加湿器、夏は除湿器を入れて、木彫像であれば60%台、掛軸など紙物は50-55%くらいで湿度を管理しています。
プラスマイナス5%の許容はありますが、できればぴったり合わせておきたいですね。
開館前にケース内の換気をして湿度を入れたりもします。
本当は閉館後に全部開放しておきたいのですが、万一震災があった時のことを考えるとそれもできないんです。
温度は人間の適温の20度に合わせていて、来館者の方にもちょうどいい温度です。
特に湿度はかなりシビアに見るのでやはり大変で、他の学芸員の皆さんも苦労されているところだと思います。
掛軸と木彫仏を同じケースに展示することがあるのですが、紙と木彫はそれぞれ適した湿度が違うのでとても気を遣います。
私は仏像を専門的に学んできたので、やはり仏像はかわいがってしまいますね(笑)。
学芸員の方がとても気を遣うという、異なる素材を組み合わせた展示
他館を見に行くと、どういうふうに展示しているのかやはり気になりますね。
例えば絵巻の巻き始めには筒状の空間ができますが、その処理の仕方が館によって全然違ったりします。
学芸員的にはあまり見られたくない部分かもしれませんが、温湿度はつい見てしまいますね。
(湿度が)ピッタリだと思えば、じゃあどんな加湿器を使っているのかな?とか(笑)。
湘南の海を見渡す境内は絶好のフォトスポット
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コロナ禍になってから、お客様と対面したご案内がなかなかできませんが、ミュージアム内に限らず長谷寺全体を学芸員が紹介する「境内案内」も行っています。
お申し込みいただければ、より詳しい解説をお聞きいただけますよ。
*境内案内は寺務所扱いとなり、事前申請が必要です。詳細は長谷寺宛に電話でお問い合わせください。
観音ミュージアムのマスコット、かのんちゃん。グッズ展開も予定している
@kannon_museum
<プロフィール>
平井理恵
1992年生まれ。実践女子大学大学院文学研究科美術史学専攻修了、2017年より現職。