isumu 学芸員さんに聞きました

なかなかお会いできない学芸員の方にお話を伺うブログです

Vol.6 茨城県立歴史館 蔀政人さん

日本三名園のひとつで、国の史跡および名勝に指定される水戸市偕楽園

ここに隣接する茨城県立歴史館は、古代から現代まで、茨城県の歴史を一度に体感できる施設です。

こちらで学芸員をされている蔀(しどみ)さんにお話を伺いました。

(以下、蔀さんのお話)

 

 

来年、令和6年に開館50周年を迎える茨城県立歴史館は、考古・民俗・美術工芸・歴史といった様々な分野の作品を収集・保存、調査研究、展示する博物館施設であるとともに、県の行政文書を保管する公文書館でもあります。

 

 

敷地内には、旧水海道小学校という現在の常総市にあった小学校や、江戸時代中期に建てられた、現在の潮来市にあった古民家である旧茂木家住宅が移築されている他、茶室なども備わっています。

隣接する偕楽園は梅のシーズンが一番人気なので、当館でもその時期に合わせて特別展を行っています。

 

 

「茨城の歴史をさぐる」と題した常設展では、縄文時代から戦後・現代まで展示していますが、その中心となるのは水戸藩関係だと思われます。

江戸時代、徳川御三家の一つとして光圀、斉昭(なりあき)、そして慶喜も輩出した地域なので、県民の方からも人気があります。

 

 

当館の一橋徳川家記念室には、令和2年に国の重要文化財に指定された徳川御三卿一橋徳川家の資料が所蔵されています。

この他、当館では平成30年に国の重要文化財に指定された三昧塚古墳(茨城県行方市)の出土品も所蔵しており、これらを核とする様々な収蔵資料の調査研究・展示を日々行っています。

 

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私は仏教美術、その中でも仏画を専門とし、大学時代から来迎図を中心に研究を進めてきました。

館蔵品の中には、現在開催中の企画展「メノツケドコロⅡ―収蔵品の謎を解明せよ!」(2023年7月30日まで)にも展示している阿弥陀二十五菩薩来迎図があります。

 

 

ここには、亡くなった人を阿弥陀如来西方浄土から迎えに来る一瞬が描かれています。

阿弥陀来迎図に描かれる菩薩の数にはさまざまなバリエーションがありますが、こちらの作品には阿弥陀如来観音菩薩勢至菩薩といった阿弥陀三尊に、二十五菩薩を加えた計28体が描かれています。

 

 

二十五菩薩はそれぞれ楽器や供養具を持っていて、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)、笛などの有名なものから、方磬(ほうきょう)や楷鼓(かいこ)といったあまり耳にしたことのない楽器も見られます。

本来、菩薩たちは今より表情豊かに描かれていたと思われますが、経年により見えにくくなっていたためか、目鼻口は後の時代に描き足されてしまっており、当初どのような表情をしていたかは分かりません。

しかし、例えば楽器を持つ手の形や指先の動きなどは当初のままなので、こちらは見所の一つですね。

死に面した不安な状況のとき、このような阿弥陀如来や菩薩たちが迎えに来て、少しでも安心して極楽へ行けることを願っていたということを考えると、非常に幻想的な絵だなと思いますね。

この来迎図は、明治初期の廃仏毀釈まで、鎌倉の鶴岡八幡宮に伝来していたということが箱書から分かります。

 

館蔵の仏像でおススメするのは、こちらの銅造誕生釈迦仏立像ですね。

 

 

茨城県南の稲敷市にあった下君山廃寺から出土したと言われています。誕生釈迦仏というと、右手を上げて左手を下げる形が一般的ですが、こちらの像は逆で、左手を上げて右手を下げる形式となっています。

奈良時代の後半頃に造られたとみられ、少し頭が大きくて体が小さい、非常にかわいらしいプロポーションをしています。

顔の表面は摩耗しているため表情が読み取れませんが、それでも何かが伝わってくる、ユーモラスさみたいなところがありますね。

誕生釈迦仏なのでお釈迦様の誕生日、 4月8日の潅仏会に使われたと考えられます。

 

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学芸員の仕事には、資料収集・保存、調査研究、展示、教育普及などがありますが、その中でも大きな割合を占めるのは、やはり展示ですね。

およそ年に一本、展示を担当しています。

直近では「鹿島と香取」(2023年5月7日終了)という展示を担当しました。

 

 

展示は、各担当者が研究したものを「こういう風に見せたい」ということを考えるところから始まります。

ある程度の章立てを考えつつ、まずは展示したい資料の候補を挙げていくんです。

“ドリームプラン”などと呼ばれているんですが、これを出せたらベストという理想のリストですね。

これを元に、各地へ調査に行きつつ所蔵者との交渉を進めていきます。

所蔵者のご都合や資料の状態のほか、予算や展示スペースなどの理由で出陳を諦めたり削ったりしていきます。

ある程度作品リストが固まってきたら、もっと綿密に、どういったストーリーで見せていくかを考えていきます。これと同時に、図録やキャプションの執筆など細々とした作業が加わってきます。

 

所蔵者との交渉というのは学芸員の醍醐味でもあるんです。

私なんてまだまだ若輩ですけれど、経験を積んでいくと各所との繋がりができますので、それを生かしつつ交渉を進めていきます。

そういうネットワークが築けていくと、例えば「ここにこういう作品があるよ」みたいな情報をいただけたりもするんです。

 

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当館では、開館50周年に向けて、様々な展示やイベントを企画しています。

歴史館の半世紀を回顧するとともに、新たな50年へと向かっていくので、ぜひご来館ください。

展示以外にも、一息つけるカフェや、梅やいちょう並木など四季折々に変化を見せる庭園などもあるので、ちょっとした疲れを癒やしに来ていただけたらありがたいです。

 

 

<プロフィール>

蔀政人 (しどみまさと)

茨城県立歴史館 史料学芸部学芸課 学芸員

1993年生まれ 青山学院大学博士後期課程単位取得退学

令和2年4月より現職